CUSTOM MEETING_YAN PRINTWORKS
刷り手の想いから考察する加工の価値

車窓から一瞬だけ富士山が顔を出し、到着したのは八王子にある異なる山の麓の高尾駅。そこからバスで10分ちょっと揺られて到着した小野田中央公園の停留所だが、もはやYAN PRINTWORKSに名前を変えても良いほど真ん前に停まる。

シャッターのグラフィティとは裏腹に、ご自由にお座りくださいと貼ってある工房前のベンチには、いつもローカルの方々が座って穏やかに談笑しながらバスを待っている。

YAN PRINTWORKSはオーダーメイドのように常にお客様に寄り添ってくれる、人情味が溢れたシルクスクリーンプリントの工房だ。オーナーの水島さんは前職も含めて、シルクスクリーンプリントに携わり続けてきた。製版から自身の工房で行い、調色のセンスや柄の合わせ方も含め、完成品を見ればその技術に驚くだろう。
妥協しないモノづくりをいつも見せてくれるので、独特なカラーや変わったデザインのお客さんの依頼は、話しやすい水島さんの人柄も相まって、ついつい相談の連絡をしてしまう。

今回は油性ラバーインクを使用したシルクスクリーンプリントにフォーカスを当てて、加工の面白さをYAN PRINTWORKSからご紹介。
※油性ラバーインク:いわゆるカレッジTシャツなどのプリントのように、布地の上にペタッとインクが張り付いているような質感に仕上がる。染み込みとは異なり、布地の上にインクが乗るので隠蔽性(いんぺいせい)が高く、下地の布地色に影響される事が少ない。

今回依頼させてもらったのはこちらの3つのデザインだ。ボディは、おすすめのOPTIMAのTシャツと、加工でよく使われるGILDANから、少し変わり種を使用。シルクの定番から少し上級編の変化球プリントまで、盛りだくさんでご紹介。
まずは、ロサンゼルスの南、オレンジカウンティに位置するブランクアパレルメーカーOPTIMA COTTON WEARのMENS LOGAN TEE S/Sを使用した、①多色2版2箇所の変化球プリントから。

①のデータはこんな感じでピンクっぽい赤と松のような緑色で構成された2色の多色データとなっている。シルクは基本的に1版1色までなので、このデザインの場合2版使用する。プリント箇所のカウントの仕方は、赤で1箇所・緑で1箇所のため、Tシャツ1枚につき2箇所となる。
製版をするときは、色ごとに版を製作することになるため、データ作成の時点で色ごとにレイヤーが分かれていると、製作する側も助かるのと、自分でも何版で何箇所なのか把握しやすいのでおすすめ。ちなみに黒丸は多色データの際に、柄合わせと言われる作業があるのだが、その際のトンボを仮でつけたものなので、お気になさらず。
※多色:1色以上のデザイン。
※トンボ:シルクスクリーンにおける「トンボ(トリムマーク)」とは、多色刷りでの色ズレを防ぎ、仕上がり位置を正確に合わせるための目印。


太陽光に当てながら、データと照らし合わせて調色してくれた。YAN PRINTWORKSの依頼は調色するようなカラーの案件も多い。「調色に時間はかかるが、出来るだけお客さんの作りたいものを再現したい」そのお客さんを大切にする想いが工房を見渡すだけでも理解できた。




今回使用したOPTIMAのTシャツは、メイドインUSAコットンを使用し、メキシコにある自社の工場で独自の糸の紡績、編み立て、仕上げを行って作られている。Tシャツの作り的にはGILDANの2000をもう少しリッチにした感じ。更に面白いのが染め方が異なるBLACKのカラーが5色あることだ。その中から今回は、ブランクボディでは珍しいEnzyme WashのBLACKを使用した。
Enzyme Wash:繊維を柔らかくしたり、ヴィンテージのような色落ちや風合いを出すために、酵素を使った洗濯・洗い加工のことで、日本では「バイオウォッシュ」とも呼ばれる。

ベタの多色のイメージが強いシルクだが、そのベタのデータにダメージを加えるだけで、以前と違った雰囲気にできる。また、調色してもらうことで更にデザインの幅が広がる。デザインを作る側と刷り手側で出来ることを掛け合わせれば、どこまでも表現の仕方が無限大なのだ。

続けてご紹介するのは、①と同じく、OPTIMAのMENS LOGAN TEE S/SのBrown Sugarというカラーを使用した、②のベタと網点を1版で構成した単色1箇所のデザイン。
音楽、ダンス、コーヒーなど、様々な現場に趣味や仕事を通して触れてきた水島さんに依頼するとしたら、渋くて変わったデザインを1個は依頼したいなと思い、製作したのがこのデザイン。
※網点:印刷物で写真やイラストの 濃淡(階調)を表現するために用いられる微細な点の集まりで、点の大きさや密度を変えることで、色の濃さを表現する方法。
※単色:1色のデザイン。

元データを見てもらえばわかるように、写真のデータとベタの文字のデータで構成してある。写真データだけ網点に変換してあるのだが、網点は好みの点の大きさで調整して良い。しかし、あまり細かい点で構成すると、製版やインクとの相性が悪く、柄が潰れたりすることもあるので、ネットなどで「網点 シルクスクリーン」とか「Photoshop for Screenprinting」と検索してみると色んな方法が出てくるので、自分好みのデータ作りに挑戦して欲しい。
元データがあれば、製作してもらったデータが使用できなくても修正ができるので、網点をご希望の方は必ず上記のようにセットで用意することをお勧めする。

こんなに濃淡がはっきりと美しくプリントできるのは正に職人技。刷る時のストロークの回数で網点が潰れてしまったり、ベタが薄くなってしまったりするので、少し難易度が高いプリント方法。シルクスクリーンプリントのデザインにマンネリ化してきた方は、是非お試しいただきたい。
※ストローク:スキージ(ヘラ)でインクを版に押し出す際の刷り方。特にスキージの圧力、角度、スピード、引き方(ストローク)がインクの乗り具合や仕上がりの品質(隠蔽性や均一性、インク膜厚)に大きく影響する重要な要素。


シルクは基本的に縫い目などの段差があるところにプリントしてしてしまうと、インクの厚みのムラが発生し、乾燥不足でプリントの剥がれやクオリティの低下などの懸念点があるため、プリントが難しいと言われている。
そこで、少し変わったところにプリントしたい方にお勧めなのが「脇の部分」。Tシャツが丸胴であれば、今回のように気兼ねなく大胆に脇にデザインを入れられる。
※丸胴:主にTシャツなどの衣類で、胴体部分が脇に縫い目がない筒状の生地で作られている仕様。

最後にご紹介するのは、王道の③のベタの1版単色1箇所左胸のデザインと、ベタの3版3色の多色3箇所の後ろ右裾側にプリントするデザイン。
ここで使用するボディはプリント業界でも言わずもがな、GILDANのボディ。そんなブランドでも意外と加工で使われてないけどおすすめのボディがgildan-ss Unisex Softstyle Midweight 1/4 Zip Sweatshirt。クルーネックのスウェットかと思いきやハーフジップで襟ぐりがリブの立ち襟のように見えて、どこかスタジャン的なスポーティー要素もある商品だ。
シルエット感はクルーネックの1800に近いので、着たイメージがしやすいのもおすすめポイント。fruitやjerzeesのNuBlendが好きな方にもおすすめ。

古着っぽい王道ベタプリントを目指した結果、謎の企業モノの古着スウェットのようなデザインで製作依頼をすることにした。こちらも①と同様に色ごとにレイヤーが分かれていると尚良し。また、可能な限りプリントサイズやカラーの詳細など、自身が仕上げたいイメージを伝えることが完成度を上げるために大切である。


この3色の柄合わせはプリント位置と製版の関係上、置き刷りで対応してもらったのだが、気持ちいいほど柄がハマった職人技を見て、思わず歓声を上げてしまった。プリントの内容で臨機応変に職人技で対応する様を目の当たりにして、改めて加工の価値を考えさせられた。

水島さんはシルクスクリーンプリントの価格を含めた価値の定義の難しさについて語ってくれた。
「製作していくまでの過程でお客さんに寄り添い、納品した商品が価格に見合っていることが大切だと思うんです。価格に見合った価値のあるモノづくりが出来るように日々努力しているし、お客さん側もそれを理解した上で加工を依頼して貰えれば、より良い製品が生まれて、長く大切に使ってもらえるのではないかと思います。丹精込めて作ったものがすぐ捨てられるなんて悲しいですからね。」
「とは言え、やはりお客さんの希望の価格も理解しないといけない部分があるので、臨機応変に対応するし、依頼の連絡がもらえることは有難くて大切なことなので、日々難しさも感じながら、最善を尽くして製作をしています。」
この話を聞いたときは、まさに水島さんの人情溢れる温かさもありながら、モノづくりをする上で大切にしている信念を感じる熱い瞬間だった。

今回はYAN PRINTWORKSの一部加工スタイルをピックさせていただいて、データから実物になるまでの刷り手の想いから考察する加工の価値をご紹介した。
こうやって様々な人の手や想いを通して丁寧に作られている事を知ると、より加工の価値を考えるきっかけにもなる。
YAN PRINTWORKSの職人技に魅了され、八王子を後にした。
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